こんにちは スタッフの松田です。
認知症の方の財産を巡るトラブルという題で、前回は成年後見人にまつわるものを
書きましたが、今回は「公正証書遺言」に関するトラブルについて書いていきます。
昨今は、高齢化の進行と遺言ブームに伴い、認知症の方が残した遺言が
「本当の遺志」かどうかを巡り、関係者が争うトラブルが増えてきているようです。
日本公証人連合会によると、公正証書遺言の作成は2014年には10万4490件に上り、
20年前の約2倍にもなっているとの事です。
まず、公正証書遺言とは?
親族以外の第三者の「証人」2人以上の立ち合いのもと、遺言者が口頭で述べた内容を、
公証人が文書にして作成するもので、法定相続人に確認しなくても作成できるものです。
その為、内容全文と日付・名前を自分で書き押印する「自筆証書遺言」と違い、
死後に家庭裁判所で内容を確認する必要もなく、公的な証書として高い信用力をもっている
との事です。
(トラブルになる多くの場合は、事前に打ち合わせがなされて、遺言者は初めて会う
公証人に「はい」というだけで作成されているようですが・・・)
公証人は裁判官や検察官のOBが大半ですが、本人と接する機会が限られる上に、
認知症のレベルと本人の意思を見極める為の具体的な基準がなく、本人の遺言能力が
はっきりしなくても、とりあえずは作成に応じてしまうケースがあるようです。
その為、公正証書遺言の作成件数の増加に比例し、トラブルが増えているのが現状です。
*「徘徊して迷子になるような認知症の親を、長男が公証役場に連れて行き、
自分が全財産を相続できるよう遺言を作らせた」
*「群馬県内の特別養護老人ホームで、認知症の入居者がホームに多額の寄付を
するとの公正証書遺言が作られていたが、誘導されたのではないか」
*「認知症がすすみ、妄想的被害を訴えたり、昼夜の認識や場所の見当識が
薄れている姉を、司法書士関与の下、全財産を自分にとの公正証書遺言を作らせた」
などなど、ほんの一部であります。
裁判に発展した場合、公証人にとって遺言を無効にする事は不名誉なことですので、
「遺言者に意思能力がなかった」と証言しません。
その為、公正証書遺言を無効にすることは難しかったのですが、最近は認知症の
評価テストの結果が病院に残っていたり、要介護度を認定する際に医師が診ている為、
意思能力について証明が出来るケースが増えてきているようです。
いくつかの判例を見てみましたが、遺言能力(意思能力)があったか否かは、
その時の状況を多方面から検証しなくてはならず、判断はとても難しいと感じました。
海外でも事情は同じでしたが、イギリスでは1995年、医師会と事務弁護士会が
認知症の高齢者らについて、法的な行為ができる能力を判定する質問リストを作成。
ドイツでは、遺言能力が微妙で作成を認めた場合、公証人はその旨を遺言に記す
事が義務づけられているとの事でした。